東西の人物像の比較 番外編:葉限とシンデレラ
このシリーズでは、中国史上の人物と欧米の人物との共通点をご紹介してきました。番外編では、実在した人物の比較というこれまでのシリーズの趣向を変えて、不思議なほど似ている童話の登場人物を比較します。
中国版『シンデレラ』があった!
マスメディアからはほど遠い遥か昔、唐王朝の時代にあたる紀元850年に葉限(しょうげん)の童話が『酉陽雑俎』に収録された。馴染み深い『シンデレラ』は、その後800年以上経った1697年に発表され、ディズニー映画は1950年に制作された。さらに昨年、従来の物語に現代的な要素を加えた『シンデレラ』が Amazon プライム・ビデオに登場している。
私たちの知る限りでは、シンデレラの原型は紀元前のギリシャに実在したロドピスとされている。『ロドピスの靴』は、ギリシャの奴隷の少女がエジプト王と結婚する物語だが、ここでは、仏詩人シャルル・ペローが発表した『シンデレラ』と比較しながら、中国版『シンデレラ』である葉限の童話について紹介する。
以下は葉限の童話の特徴だ。
・葉限という名の美しい娘は、心優しく、穏やかな人物。
・葉限の母は他界している。
・父も亡くなり、冷酷な継母に預けられる。
・継母はあらゆる手段で葉限を虐げる。
どこかで聞いたことのある話だ。
葉限は貧しい生活を強いられていたが、彼女の側にはおしゃべりな魚(シンデレラではネズミ)がいて、この魚が彼女にとって唯一の喜びであった。毎日、魚に会いに行くと、魚は喜んで水面に顔を出し彼女に挨拶する。
しかし、葉限の嫉妬深い継母がすぐにそれを発見してしまう…。魚は継母が近づいてくるのを見ると、継母の殺気立った視線から逃げ去るかのように、すぐに深く潜ってしまうのだった。
ある日、継母は魚をおびき寄せようと葉限に扮し、葉限の声を真似て声をかける。魚はてっきり葉限だと思って水面に出てきたが、継母だったことに気づく。しかし、もう遅い。小刀を持った継母は、葉限の継妹とともに魚を調理して食べてしまった。残った骨は糞土の下に埋められた。
唯一の友達だった魚が殺されたことを知った葉限は、泣き崩れる。
『シンデレラ』では魔法使いのフェアリーゴッドマザーが現れるが、流涕している葉限の前には、白銀の髭を生やした道服姿の道士が現れる。
道士は「泣くでない、わが子よ」と葉限をなぐさめ、「魚の骨がどこに埋まっているか知っておる。掘り出して部屋に隠しておくのじゃ。困ったときは、その魚の骨に願えば、望みを叶えてくれるじゃろう。しかし、欲張ると天罰が下る。肝に銘じておくように」。
「靴」
街で新年祭が開催されるため、葉限の継妹も、胸を踊らせながら婚約者探しに出かけることになった。
葉限も行きたかったが、継母は彼女の外出を禁じる。新年祭で葉限の美しさが継妹を凌ぐことを恐れたのだ。
ドレスもない。葉限は魚の骨を取り出した。するとびっくり。突然、煌びやかなシルクと羽織に身を纏っているではないか! 足には靴が金色に輝いている。
魚の骨と道士のおかげで、葉限は新年祭に行くことができた。彼女が現れるやいなや、その美貌に皆が惹きつけられた。天使のような顔、魅力的な微笑み、品格のある身のこなしに人々は感嘆した。
葉限が賞賛されることに慣れてきた頃、継妹に見つかってしまう。
「お母さん! 見てちょうだい。あれ、姉さんじゃない?!」と継妹が叫ぶ。
叫び声を聞いて、葉限は急いでその場から離れようとした。その時、彼女の可憐な足から靴が脱げ落ちてしまった。
物語の展開をやや早めると、その靴は最終的に(おそらく秀麗な)陀汗の国王が手にする。王は靴の持ち主を探していた。
王はその靴に心惹かれ、靴に合う足の女性と結婚するという勅令を出すほどだった。
多くの未婚女性たちが運を試すが、靴に合う人は出てこない。
王はもう片方の靴を探し出すために、使いを派遣し国中のあらゆる家を隈なく調べさせた。ついに、葉限の家の引き出しから、彼女の美しいシルクの衣と共に、もう片方の靴が見つかった。
葉限は王に謁見した。王は彼女の美貌にその場で目を奪われた。葉限に靴を履かせると、ピッタリだった。
王と葉限は結婚式の準備が整うとすぐに、結婚した。葉限は意地悪な継母と継妹から解放され、王と幸せに暮らすことになった。
容姿だけでなく心も美しかった葉限は、継母と継妹を許した。屈辱、虐待、残酷な仕打ちを受けたにもかかわらず、怨恨の念はなかった。この善良さが彼女の魅力の一つだったのかもしれない。
『シンデレラ』と同様、この物語には様々なバリエーションがあるが、最も一般に知られているものをここで紹介した。
ギリシャ版の『シンデレラ』は、イラク版と同様にサンダルが出てくる。中国版と仏版では、それぞれ黄金の靴、ガラスの靴である。ロシア語、ベトナム語、チベット語、タイ語版も同様だ。
アジア版では輪廻転生が大きく取り上げられるなど文化的な違いが見られるものの、洋の東西を問わず、これらの物語は、優しさと寛容であることの大切さを説いている。嫉妬や憎しみから悪事を働く者を許し、たとえ希望がないように見えても、優しさを常に心に刻むことである。
「シンデレラストーリー」のコンセプトは、善良な人が不運に見舞われ、不公平なことや苦難に見舞われても、忍耐と信仰によってやがては救われ幸福になるというものだ。今日に至るまで最も長く人々に愛される筋書きだ。
リーシャイ・レミッシュ
神韻芸術団 司会者