雪に覆われた坂を登れないバス
車窓の外に雪がちらついていた。立ち往生したようだ。
不思議な感覚に襲われた。4時間のバスの旅路から目が覚めた。坂を下っている。後ろ向きに…。窓の外を見ると、路上に薄い氷と雪が張っていた。
バスの運転手は、また坂を上がろうとした。しかし、ゆっくりと後退してしまうばかりだ。オーケストラのマネージャーが皆をバスの後ろに立つように指示し、運転手がもう一度トライした。2回試したが、全く変わりなし。坂の下からは動いていない。
バスの運転手と話し合ったあと、オーケストラ・マネージャーが「バスから降りよう。滑りやすいので気をつけて」と言った。当然のなりゆきだった。
暖かく心地よいバスを背に、冷たい冬へと進み出た。路上の左側が傾斜になっていて、その上に家があった。
転ばぬように道を横切り、道の脇に立った。バスが空になれば問題は解決すると思った。しかし、バスはまだ、氷の張った坂道を登りつめることができない。
待っている間、何台かの自動車が対向車線を通り過ぎた。我々の事情を把握して、幸運を祈る人、懸念する人、ののしる人などがいた。我々は、何があっても心の平穏を保ち、バスがこの障がいを克服することを祈った。
道路の横の家に住む女性が、路上に立たずに自分の家の近くに来るように勧めてくれた。我々はお礼を言って家のドライブウェイに移動した。
丘を登れないバスを見ながら、男子がバスを押しに行くことにした。かなり懸命に押したが、バスは坂を登らなかった。
この間、女子は髪も衣服も雪に薄っすらと包まれながら、坂の上に立っていた。
冷たい中にしばらく佇む我々を見て、女性は、家の中に入るよう招いてくれた。迷惑をかけたくなかったので、お礼を言って丁寧にお断りした。そして、神韻のカレンダー・カードを渡して、神韻について説明し、我々はオーケストラのメンバーだと伝えた。女性はカードの美しさを褒めて、お礼を言った。
ようやくバスが別ルートを通ることとなり、バスに呼び戻された。女性に「さよなら」を告げ、親切に感謝した。女性は「神の恵みがありますように」と暖かく応え、旅路の安全を願ってくれた。バスの中から、この親切な女性に手を振って、もう一度「さよなら」を伝えた。
別のルートを通って旅路を続けた。雪で身体はぐっしょりになったが、今の出来事を振り返り、この女性との心地よい出会いは、冬の寒さを貫く暖かい陽光のようだったと感じた。
チウ・ワンロン
ファゴット奏者