芸術を生み出す過程
紙の上でスケッチする音。削りたての鉛筆の匂い。
プロジェクションのデザイナーやエンジニアには、プロジェクション、ビデオ、編集技能を操る能力だけでなく、演出法、ダンス、ドラマ、音楽への造詣が求められる。それだけでなく、私たち一人ひとりに、独自の芸術を生み出す能力が求められている。
昨年、スケジュールの合間に、色鉛筆で静物画を描き始めた。神韻チームが全く新しいシーズンのために草案を練り、振付を生み出し、リハーサル、総仕上げへと準備を進めるにつれ、私の静物画も少しずつ完成に向かっていった。イーゼルの前で過ごしたことで、貴重なものを得た。仕上げられた作品の背後には幾層もの物語がある。同様に、神韻の舞台は、数百名のアーティストの専心から生まれたものであり、一つひとつの場面の背後に無数の物語がある。舞台のどの部分でも、語れる逸話が存在するのだ。
ノスタルジアは記憶の副産物であり、結果でなく経過を思い起こさせてくれることが多い。アーティストにとっては、結果だけでなく経過も重要だ。ゼロから始めなければならなかった時、夜明けまで練習を続けた時(新しい宙返りの技法を成功させようとする、胸を打つソロ演奏を完璧に仕上げる、舞台背景の動画の数え切れないほどの回数にわたる作り直しなど)、苦労した時の記憶は鮮明だ。苦しみ、汗と涙にまみれ、繰り返した時間は、無駄にはなっていない。芸術家としての本来の姿勢に取り組むことで、精神が高められ、感覚が育まれる。制作された作品は、善、真の美しさ、誠実さを、鑑賞する人々にもたらすこととなる。
汗にまみれたダンス、リハーサル、仕上げ、そして私のスケッチに費やされた無数の時間は終わりとなり、2018年の神韻ツアーに向けていよいよ出発だ。
最高傑作が揃った今年の演目を分かち合うことが待ち遠しい。
静物画制作の経緯
2016年8月30日:色鉛筆のスケッチを始める。構図を決めたが…
2016年9月13日:…生命感がない。アヒルのぬいぐるみをザクロの上に置く。
2016年10月3日:色鉛筆を使い始める。黒、青、緑、赤、紫などを塗ってみる。
2016年10月17日:黒く見えたワインボトルは実は黒ではなかった。
2016年10月24日:複雑なバスケットのスケッチに取り掛かることを最後まで延ばしていた。全体の進行過程をつかむことが重要であり、細部にこだわる段階ではない。
2016年10月25日:シャンペン・グラスを忘れてはいけない。
2016年11月1日:奥行きがない。ミカン2つとぶどう1ふさを背後に置く。また数時間、これで作業が増えると思い、ちょっと涙が出た。
2016年11月7日:背後の布地も筆画を要する。
2016年11月26日:昨年の神韻ツアーが始まる前の最後の努力。これで終わったと思い、サインもした。
2017年6月23日:8ヶ月のツアーを終え、短い休暇に、また静物画に戻る。愛しのバスケットやフルーツたちよ。まだ直す必要のある部分が見えてきた。洋ナシ、卵、アヒル、グラス、バスケット、ぶどう、ワインボトル…結局全てに、手を入れた。
2017年7月2日:バスケットの右のぶどうがちょっと窮屈そうだ…
2017年7月23日:…下に向けて垂らすことにした。全体が黄色く明るすぎるのでトーンを抑えた。今度は、卵が明るく大きすぎるように見える。
2017年8月27日:ほぼ一年を経て絵が完成。技術的に向上させるべき点は数多く、世界一の画家になるまでの道のりは遠いが、この旅路は充足していた。また次の旅が楽しみだ。
アニー・リー
プロジェクター映写技師
2017年12月10日