並存する二つの世界
南フランスの保養地フレンチ・リヴィエラのニースに夕刻到着。遊歩道を散策しに外に出ると何か不気味な感覚に襲われる。昨年の死傷事件からまだ間もない。ハート型に置かれた岩や古くなったドライフラワーが脇に点在していた。翌晩、町の中心にある劇場の舞台で、美しい舞踊と音楽の公演を紹介していた。希望とインスピレーションに満ちた公演だ。まるで別世界のような舞台だ。
2017年春の神韻の欧州ツアーは、テロがつきまとうような感じだった。パリのシャンゼリゼでの射撃、ロンドンのウェストミンスター橋での襲撃は、いずれも我々が到着して数時間内に起こったことだ。スペイン、バルセロナで最近襲撃のあったラ・ランブラ通りは、我々が公演した劇場のすぐ外だ。
アフガニスタンでもシリアでも私が1990年代に高校生活を送ったイスラエルでもない。パリ、ロンドン、バルセロナだ。しかし、各地での劇場内は、別世界だった。そこには、かつての古き良き世界が甦っていた。
神韻が描写する世界―失われた古代中国の世界―は、他では見ることができない。現代の中国でさえ見ることができない。テーマ「五千年の文明が甦る」は、まさに舞台そのものだ。中国伝統文化を構成する最も壮麗な要素を採り入れている。数十年にわたり共産主義の暴行が破壊してしまったこの文化を、舞台芸術を通して世界の人々と分かち合う。
この過程で、本当は中国文化ではなく、人間に共通するもの、つまり希望や人生の意味への模索を分かち合うのだということに私たちは気がついた。
神韻のやり方は、過去を振り返りながら同時に未来を見据え、実に独特だ。舞台の主な芸術形態は中国の古典舞踊で、数千年の歴史を誇る。アスレチックで息を呑む舞踊に、かつて宮殿で皇帝たちも惹きつけられたに違いない。生オーケストラが舞踊を支える。東西の古典楽器が滑らかに融合する。照明は簡素ながら完璧で、衣装の眩い色彩を引き立たせる。動画の背景はステージに止まらずに舞台を拡張し、人類の目からは見えないような世界、時空を超えた世界へと観客を誘う。過去の物語や伝説、そこから学び取れる教訓・徳などが舞台に息づく。
団員の取り組み方も独特だ。日常生活の中で、内面を見つめ精神性を高めるように自己を育む。無我の水準が求められる。毎晩、毎晩、観客が涙するほどまで感動する理由はここにある。
ニューヨークに戻り、次のシーズンの準備に忙しい。空気がひんやりとしてくる。リハーサル時間は長く続く。すべき仕事はまだまだ残っている。仕事と家庭のバランスをとりながら進めていく中で、世界中で、最も必要とされる場所で、神韻の希望のメッセージを分かち合うために外に出ていくことが待ち遠しい気持ちがあることは否めない。
リーシャイ・レミッシュ
神韻芸術団 司会者
2017年9月13日