楊志 刀を売る
中国四大奇書の一つ『水滸伝』 は、北宋時代を舞台にした「梁山の百八の好漢」の物語です。
14世紀に書かれたこの小説は、徽宗 (きそう)皇帝の時代の好漢に関する民話から素材を得ています。酔っぱらいの僧侶として知られる魯智深(ろちしん)、虎を素手で殺した武松(うそん)など、中国の民話でも豊かなキャラクターを描き出しています。そして、百八の好漢の一七番にあたるのが、 楊志(ようし)です。
楊志(ようし)は、代々にわたり宋の国境線を守ってきた楊家の子孫にあたります。神韻のダンス『ム・グイイン統帥』(2012)の題材でもあります。身長2メートル以上の大男。顔にはひげがあり青痣があることから青面獣(せいめんじゅう)とも呼ばれました。幅広の帽子がトレードマークです。
楊志は武芸十八般に通じた豪傑で、片腕で槍を曲げてしまう能力がありました。しかし彼にとってのプライドと喜びは、万里の長城以南では最も速く、最も鋭い、彼の刀でした。
普通の刀ではない
その刀は家宝で、三つの特徴を備えて言いました。1)刃が全くこぼれることなく、あらゆる金属を切り抜く 2)刃に軽く触れるだけで髪が細切れになる 3)血痕を残さず人を斬る
楊志は、才能に恵まれ、有望な未来が期待できる若者でした。しかし、運悪く、自分が運搬監督していた皇室の宝物が黄河を渡る際、船が転覆してしまいます。全てを失い、 寛大な措置をお願いしようと都に戻ったところ、解雇されてしまいました。
別の高官が楊志に貴重な贈り物の運搬監督を依頼します。長距離の危険な旅で、辺境の盗賊の住処を通り抜けなければなりません。楊志は自分の隊列を商人のようにみせかけ、灼熱の太陽のもとで、明るい時にだけ移動しました。しかし、この用心深さも役には立ちませんでした。疲れ果てた人足たちが、重荷を下ろして少し休みたいと頼んだのです。荒涼とした木々の間で休んでいると、トラブルは向こうからやってきました。
毒入りの酒
正直そうな男が、大きな酒樽を持ってやってきました。のどが乾き切った人足たちが、酒を売ってくれるように頼みました。 当時、酒に薬を混ぜ毒をもることは、よくある盗賊の手口でした。楊志は当然ながら拒みましたが、人足たちが飲んでも別状ない様子だしさらに彼らに飲むようにせかされ、自分も口にすることにしました。
椀を下ろすとまもなく、人足たちがひとりずつ倒れていくではありませんか。彼自身も腹を抱え、足下がおぼつかなくなり、騙されたことを自覚します。貴重な贈り物を盗るために 詐欺師たちが樹木の間からこっそりと出てきたとき、楊志は、揺れ動く世界のなかで、刀を力なく振り回すことくらいしかできませんでした。そして、地面に倒れ込んでしまいました。
目を覚ました楊志は、自分の雇った人足が責任を逃れるため自分を置き去りにしたことに気がつきました。 一文無しで、楊志は歩いて町へ向かいます。
「英雄は剣を持たずに旅することはない」という中国の古い格言に反して、楊志には家宝の刀を売る他に術はありませんでした。
市場では、忌まわしいならず者が悪さをしています。楊志は再び渦に巻き込まれてしまいますが、今度は報酬をもらうことになります。さらに、卑劣な暴君から町の人々を解放します。
その後、青面獣の楊志は、酔っぱらいの僧侶魯智深(ろちしん)と出逢い、梁山の好漢のもとに向かいます。
神韻の演目『楊志 刀を売る』(2013年)は『水滸伝』から採用したものです。ロビンフッドの性格を思い起こさせます。
2013年2月3日