神韻プリンシパル・ダンサー、キャロル・ホワンのスターへの道のり
ラグジュアリーなライフスタイルを紹介する英中バイリンガルの『マグニフィセンス』誌。東西に共通する伝統美と優雅さの架け橋となることを使命とし、フランスとカナダで幅広く読まれています。
『マグニフィセンス』誌に掲載された、神韻のプリンシパル・ダンサー、キャロル・ホワン(黄悦)の特集記事をご紹介します。ホワンは2017年に神韻芸術団に入団。2018年、新唐人テレビ主催の全世界中国古典舞踊大会(ジュニア女子部門)で金賞(同点首位)を獲得しました。
「伝説上の美女を演じる」―『マグニフィセンス』誌より
中国人なら誰でも知っている、伝説上の四大美女に挙げられる貂蝉(ちょうせん)。14世紀の歴史小説『三国志演義』では、養父が三角関係を工作して横暴な独裁者の息の根を止めた策略が描かれている。貂蝉は、その比類のない美しさで恐怖政権に終止符を打つ、というどの勇士にもできなかったことを遂行した女性として伝えられている。
漢王朝の末期、董卓(とうたく)という横暴な武将が宮廷の実権を握っていた。養子である非情な武将・呂布(りょふ)に護られながら、国に大混乱をもたらし、自分に逆らおうとする者は皆殺しにした。皇帝への忠誠心の深い一人の高官が、国を救うための策略を遂行した。彼は父の董卓と子の呂布の仲を引き裂くために、美しい貂蝉を別々に差し出すことにしたのだ。
貂蝉の物語は、何世紀にもわたって中国の作家や芸術家が題材とし、さまざまに脚色された作品が生み出されている。神韻芸術団は2020年のツアーでは、この伝説的な物語をダンスの演目『傾国の一計』として制作した。
貂蝉を演じたのは、スターの頭角を現してきた神韻プリンシパル・ダンサーの一人、キャロル・ホワン。インタビューにあたって、中国史上で最も美しい女性を演じるとはどういうことなのか、興味津々だった。
単色の服に身を包んだホワンが微笑みながら私の前に現れた。彼女が陽気で生き生きとした若い女性ながら、誠実な物腰が印象的だった。貂蝉が象徴する込み入った策略の影はみじんもない。まず初めに、一言も喋らずに7分で貂蝉の物語をどうやって伝えることができたのかを尋ねた。様々な背景をもち言語の違う観客に対し、二千年前の中国史の一幕をどう理解してもらうのだろうか?
現代人の多くは、貂蝉の並外れた美しさと、彼女の巧妙な手段と策略の能力に注目する。しかし、ホワンは異なる解釈をしていた。貂蝉の物語の本質は、彼女の美しさではなく、父と祖国への献身にあるのだと。
「『三国志演義』を読んで、貂蝉は養父をとても尊敬し、祖国に献身的だと感じました。他人のために自分を犠牲にすることも厭いません。とても勇気があります」
『傾国の一計』のあらすじは複雑だ。ホワンは、この役の準備を始めたとき、最も難しい部分は第三幕だと感じた。非情な暴君との踊り、そしてその息子との踊りがあるのだ。二人が互いに争うように仕向けるため、素早い動きと難しい技がぎっしり詰まっていた。しかし、この役をもっと深く掘り下げていくと、父親が最初に協力を求める第二幕の庭のシーンが最も難しいことがわかってきた。
「心の中では、やりたくなかったのです。でも、父親の苦悩や国の悲惨な状況も理解していました。自分を犠牲にすべきかどうか、養父への愛と感謝、決断の難しさ、決心してからの固い意志など、このシーンの踊りには様々な感情が入り混じっています。この複雑に絡みあう思いをダンスで表現するのです」
役柄を明確に表現するために、ホワンはひとつひとつの動作を生み出す考え方や感情に綿密に注視した。音楽を何度も聴いて自分の感情を移入し、動きに落とし込んでいった。
中国古典舞踊は、アーティストの心が導き出す芸術だ。ダンサーが感情を移入することで初めて、身体が心に追随し、表現力豊かで惹きつけられるダンスが生み出される。
「同じ動きでも、ダンサーが表現したい気持ちにより、速度が変わり、喜びや悲しみが移入されていきます。背後にある感情が異なれば、同じ動作でも異なるものが表現されます。中国古典舞踊の特徴とも言えるでしょう」
貂蝉の役を演じることは、舞台芸術家としての成長につながったとホワンは考えている。自分の踊りを理性的に捉える力がついた。彼女にとって、中国古典舞踊は単に身体を動かすだけのものではなく、知性と熟慮が求められる。このような合理性が身についたことで、役柄をより深く理解できるようになり、表現しやすくなったという。
「この過程を通して、いろいろなことを考えて答えを出してきたからでしょう」。これも、物事の内に秘める意味を汲み取る、中国の伝統文化への理解が深まったおかげだと言う。
「中国の伝統文化と同じように、中国古典舞踊は内に秘められた意味や感情に焦点を当てます」
ホワンは中国で生まれ育った。母親によると、幼い頃からダンスに興味を持っていたという。4歳の時にダンスを始め、中国古典舞踊と民間舞踊を学んだ。
12歳の時、ニューヨークにある飛天芸術学院に入学。世界でも重要な中国古典舞踊アカデミーだ。渡米し、プロのダンサーを目指して精力的にトレーニングを始めることとなった。2018年、ホワンは新唐人テレビ主催の全世界中国古典舞踊大会・ジュニア女子部門で金賞を受賞した。
ニューヨークでダンスのキャリアをスタートさせたホワンは、中国にいる両親の安否を心配し続けていた。彼女の両親は法輪功と呼ばれる中国の精神修養法を学んでいる。法輪功は、法輪大法としても知られており、その心身向上への効果から、1990年代に中国で人気を集めた。当時の中国政府は、1億人近くの中国人が法輪功を実践していると推定していた。
この高まる人気を恐れ、中国共産党の指導者たちは、1999年7月に法輪功を「社会の最大の敵」と宣言し、法輪功学習者に対する残忍な迫害を開始。法輪功学習者は強制労働所、精神病院、刑務所に送られ、修煉を放棄するまで拷問を受けた。ホワンの両親は信念を捨てることを拒み、この迫害を直接体験している。
中国では、法輪功学習者は常に違法な拘束、投獄、嫌がらせ、差別に直面している。ホワンはこのような恐怖に包まれた環境の中で育ってきた。
ある年の神韻公演で、ホワンは中国の法輪功迫害を描いた舞踊劇で天女を演じた。舞台で演じながらも、迫害されている修煉者を演じるダンサーたちに感動していた。
「揺るぎない信念を持って辛抱している姿に、深く胸を打たれました。中国国内の修煉者がいかに困難な状況にあるかを知っているので、中国のすべての知人のことを思い起こしていました」
アメリカにいる間、ホワンは両親からほとんど連絡を受けず、何年も会っていなかった。ある日、両親が来るという知らせを受けた。驚きのあまり、天にも昇る気持ちだった。
ホワンの両親は再度、不法に拘束されたことで、米国に亡命することにしたという事情をその後知らされた。法輪功について道行く人に話していたところ、誰かが警察に通報したのだ。釈放された後、ホワンの両親は中国を出る決意を固めた。
アメリカでの両親との再会はほろ苦いものだった。やっとお互いの安否を気にせずに家族が揃うことができたのだ。しかし、生まれ育った土地を離れ、異国の地で再出発する悲しみからは逃れられない。
中国の友人や家族と連絡が取れなくなったホワンと両親。しかし、彼らのことを忘れてはいない。中国古典舞踊を通して、本当の中国と本物の中国人の物語を伝えたいという決意の原動力になっているという。
「集中トレーニングでぐったりすることもありますが、自分がやっていることはとても重要で特別なことだとわかっているので、何があっても耐え抜いています」
神韻は、共産主義の支配下にある中国で破壊された五千年の神伝文化の復興に献身する舞台芸術団だ。この使命を果たすために、神韻は毎年、新しい作品を制作している。振付け、音楽、ストーリーすべてが全く新しい。
「共産主義のない中国」のビジョンを観客に伝えるために、神韻のダンサー、音楽家、振付家、プロダクションデザイナーは、常に自己の芸術領域の限界に挑戦している。毎年、100以上の都市で100万人以上の観客が、ホワンを含めた神韻のアーティストを歓迎している。芸術団のツアーは6ヶ月以上にわたり、世界各地で行われる。
ホワンは才能に溢れた女性だ。エネルギー、熱意、知性、そして仕事をきちんとこなす態度が、スターへの道を切り開いた。そして、この上昇気流は止まることがない。
ホワンは本当に幸運だと言う。自分に与えられた機会、そして、これまで支えてくれた両親、クラスメイト、先生、サポートスタッフ、その他多くの人たちに感謝している。
毎年、ツアーで誕生日を迎えた時、同じ願い事をする。「ダンスが上達して、ツアーがスムーズに成功しますように」と。
「毎年、願いが叶うんです!」― 彼女は確かに幸運だ。