フィッシュ・ライト?
フィッシュ・ライト(魚光)とはダンサーの隠れた武器。自信がないときに、遅れをとらずに動けるようにしてくれる。逆に自信たっぷりで敢えて一歩先に出てしまいそうなときには、引き戻してくれる。ソロのダンスや大勢で踊るとき、またスタジオでの練習や舞台での本番でも、この魚光はとても便利なツールだ。
さて、この謎めいた言葉の意味を想像していただけただろうか。
ダンサーは目の端で物を見る。中国語でこの技法は「余光(ユイ・グワン)」と呼ばれ、普段より視界が広くなる。「魚光(ユイ・グワン)」も中国語では同じ発音なので、いわゆる掛け言葉だ。しかし、ダンサー用語辞典に正式に記載されるべき重要な言葉だと思う。
なぜって?ダンスの世界で大切な概念を言い当てているから。魚はいつも外を見ている。顔の両側についた目で、前後左右上下を見回している。そして、水中のわずかな振動も逃さず、お互いの存在を感じ取る。他の魚が向きを変えようとする瞬間を感じ取ることができるので、まとまって泳ぐうえで特に役に立つ技能だ。
ほとんどの魚、特に小魚は、群れをなして泳ぐ。これは魚にとって重要だ。他の魚にぶつからないためではなく、生きのびるうえで不可欠なのだ。敵が一匹だけを追いにくくなる。大きな魚が小魚を飲み込もうとするとき、小魚たちはみごとに一体となって泳ぐ。揺れ動けば揺れ動くほど、互いの動きに敏感になる。このように一緒に行動することで、魚の群れが実は一匹の大きな魚ではないかと敵に思い込ませる。こうなると、もはやおいしそうな餌ではなくなってしまう。
同様に、私たちダンサーも常に周りの状況に気を配る。大勢で踊るときは特に大切だ。一つひとつの隊形で、 全く同じ動きが求められ、特定の場所にいなければならない。さもなければ、全体の構図がばらばらになってしまう。しかも左右を見て一列に並んでいるかを確認することは絶対に許されない。だからこの「周辺視覚」を利用する必要があるのだ。この技能はダンスの教室で練習を重ねながら身につけるものだが、同時に暗黙の了解である「默契」(心が通じ合うこと)も大切な要素だ。他の人が何をしているか、どこに立っているかを目で確認する必要はない。つながりが深ければ深いほど同調性が高まり、流れに身を任せやすい。
良かったことに、ダンサーは、腹をすかせた敵から逃げ出して生きるために群れになる必要はない(教師の厳しい目だけに気をつければいい)。私は、全ての物を見逃さない魚の視界が実に気に入っている。ダンサーが舞台で完全に一人になることがないように、魚も海の中でたった一匹になることはない。バラバラよりも一つになる方が力強いという確信が私たちを一つにする。数百万匹の小魚が一体になれば一匹の大きな魚になる。
アリソン・チェン(陳超慧)
プリンシパル・ダンサー
2013年9月2日