中国古典舞踊に見られる蹴り上げ
中国の陰陽説では、相対する力の均衡が和を生み出すとされている。ダンサーには柔軟な身体が求められるだけでなく、両手両足を使っての弾けるような動きも必要だ。
究極の蹴り上げ
中国古典舞踊では、究極の柔軟性、力強さ、敏捷さに到達するために、脚を使うトレーニングが求められる。「踢腿」(ティー・トゥイ)と呼ばれる蹴り上げは、単独の動作としても、跳躍や宙返りなどの数多くの技法の基礎としても用いられる。前、横、後ろへの蹴り上げだけでなく、前から横、横から前への蹴り上げもある。
写真はプリンシパル・ダンサーのチェルシー・ツァイが舞踊競技大会で脇からの蹴り上げ、「旁腿」(パン・トゥイ)をしているところだ。
簡単に見えるが下記が求められる。
1. まず、両脚をまっすぐに保つ。
2. 蹴り上げた脚のつま先は上を指す(振付師から別の指示がない場合)。
3. 腕、胴体、地につけた脚は、蹴り上げの動きの影響を受けない。ひるんだり、ぐらついたり、曲がったりすることは一切ない。
4. 最高水準の精確さ、速度、高さに達成する。
後ろへの蹴り上げ
蹴り上げのバリエーションとして「倒踢」(ダオ・ティー)がある。「後ろ蹴り」と訳せるだろう。完全なポーズには、十分な柔軟性と、腰・背骨および肩から腕にかけての広域な動きを要する。
倒踢紫金冠は名前が示唆する通り、後ろ蹴りをして脚を頭上で維持する「紫金冠」の姿勢を保つポーズだ。
写真では、プリンシパル・ダンサーのアンジェリア・ワンが公演前にウォーミングアップとして倒踢紫金冠の姿勢を保っている。
この後ろ蹴りの練習は、中国古典舞踊の多くの技法や跳躍を習得する上での欠かせない条件である。美しい「後ろ蹴り」は特に女性ダンサーには重要で、志の高い若いダンサーに習得・向上させていくことが求められる。
ツバメをキック…
後ろに向きながら前に蹴る―矛盾しているようだが中国古典舞踊の技法の一つだ。
中国語で「踹燕」(チュアイ・ヤン)は「ツバメを蹴る」という意味。練習中に動植物が痛めつけられることはないのでご心配なく。
ツバメは通常、空高く舞い上がる。ダンサーの脚をツバメにまで届くよう伸ばさなければいけないというわけだ。顔をツバメにつつかれないように(?)、上半身は後ろに反らせる。
この写真では、ダンサーのエミリー・パンは、ツバメはみつけられなかったが、「オーストラリアのカモメを蹴っている」。
この蹴り上げでは両脚は完璧な直線をなし、骨盤は極限まで後ろに倒される。究極の柔軟性、抑制力、強さが美しく融合されて完璧なポーズができる。(床運動で体を反らす動きは、実はこの中国古典舞踊の蹴り上げから来ているということをご存知だろうか?)
レッスン、リハーサル、公演を通して、神韻のダンサーは1日500回以上の蹴り上げをする。「500のキック」と内輪では呼ぶ。1000回の蹴り上げをする者もいる。
今日、何回蹴り上げた?
アリソン・チェン(陳超慧)
プリンシパル・ダンサー
2016年5月18日